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《パネルディスカッション Ⅰ》

大腸内視鏡修得法

司会:松田尚久(国立がん研究センター)
司会:白倉立也(松島病院大腸肛門病センター)

第1会場 9:20~10:05)

 日本における大腸癌の年齢調整死亡率は、1995年以降、横ばいあるいは僅かな減少傾向にあったものの近年再び漸増傾向にあり、国立がん研究センターがん対策情報センターからの報告では、年間14万人以上が罹患し5万人以上が大腸癌で亡くなることが予測されています。マス・スクリーニングにおけるFOBTおよびS状結腸鏡検査の有用性は、多くのランダム化比較試験から既に証明されているものの、今後、日本において加速度的な大腸癌死亡率減少をめざしていくためには、全大腸内視鏡検査を組み込んだ検診プログラムの見直しを視野に入れた対策が必要です。その際には、1)検診モダリティとしての安全性評価、2)検査処理能力(キャパシティ)、3)コスト面(医療経済的側面)、4)質の担保(Quality Assurance)等についての検証と整備が重要となります。

 今回、当番会長の鈴木康元先生より「消化器がん検診に若い力を!」というメインテーマのもと、「大腸内視鏡修得法」に関するパネルディスカッションが企画されました。全大腸内視鏡検査を組み込んだ検診プログラムの実現のためには、「質の高い検査を提供できる十分な受け皿作り」が極めて重要であり、そのためには、次世代を担う若い内視鏡医の先生方の力が不可欠です。本パネルディスカッションでは、大腸内視鏡検査時のスコープ挿入・観察・診断・治療といった一連の基本手技を修得するあるいはスキルアップさせる上で大切となるポイントについて、各パネリストの先生方からご講演を頂いた後に、会場の皆様からのご質問も受けながらディスカッションを進めていきたい思います。内視鏡経験の浅い先生のみならず、既に独り立ちして大腸内視鏡検査に従事されている先生にとって、日常臨床にダイレクトに役立つ「大腸内視鏡修得法」について幅広い議論が出来ればと考えています。多くの方々のご参加をお待ちしています。

1)大腸内視鏡習得法

   五十嵐宗喜(東海大学医学部)
 大腸内視鏡検査( 全大腸内視鏡検査:total colonoscopy )は現在では内視鏡機器、前処置法の劇的な進歩により、設備、環境が整えばどこでも行える検査となっている。

 しかしながら大腸内視鏡挿入法に関しては被験者側の要素である開腹術後癒着、過腸大腸、痩せた患者、太った患者、多発憩室例など様々な要因がある。また診療側の要素であるスコープの選択(内視鏡装着フードの活用、硬度可変機能の活用も含め)、前処置法、検査環境(内視鏡挿入形状観測装置の活用、CO2送気の有無、用手圧迫の有効性、鎮痙剤の使用が可能か、鎮静剤の使用が可能か、体位変換の必要性)といった様々な問題もあることから漫然と修練を積んだからといって必ずしも上達するものでもないこともこの検査の難しいところである。しかしこの大腸内視鏡挿入をマスターすることがその先にある見落としのない観察、更には診断、治療に繋がっていくものである。そこで今回は大腸内視鏡挿入法を習得するにあたって、必要なポイントをこの両面から改めて整理し、基本知識も確認し、安全かつ質の高い検査ができるようになるための内容にして、少しでも日常臨床に役立つようなディスカッションもできればと考えております。


 

2)当院における大腸内視鏡習得の流れ~研修初期を中心に~

   黒木優一郎(昭和大学藤が丘病院)
   遠藤利行、上原なつみ、阿曽沼邦央、山本頼正、長浜正亞、

   神長憲宏(神長クリニック)

   佐竹儀治(田坂記念クリニック)

 内視鏡の進歩は目覚ましく、大腸内視鏡も様々なスコープや周辺機器が登場しているが、挿入に対する指導法は内視鏡医にとって重要な課題である。挿入が出来なければ、その後の観察や診断、ましてやEMR、ESDなど遠い先の話である。挿入法に限らず内視鏡手技は基本が大切であり、基本がしっかりしていればその後の上達が早いのは言うまでもない。

最初の2週間は上級医の挿入を見学しながら、コロンモデルでの挿入技術の基礎を学ぶ。挿入は軸保持短縮を基本としているが、全例直線化で挿入出来るわけではないので、right turn shortening、hooking the holdなどの対処法も学ぶことが大切である。また、多くの施設でそうであろうが、当院では上部消化管内視鏡が自立した後に大腸内視鏡に取り組むシステムをとっている。そのためtraineeは内視鏡自体の扱いには慣れているが、上部消化管内視鏡の姿勢やアングル、スコープ操作感覚のまま大腸内視鏡を始めることになるため、まずはそこの調整から始める。また、初期の3か月間の挿入は無送気浸水法で指導を始めている。そうすることで過度なpush操作になることなく、軸保持を前提とする挿入が自然に身につくと考えている。S状結腸を直線化して通過しようとする感覚が身についた後で送気自由による挿入を解禁としている。

また混乱を避けるためチェックポイントを最小限に絞っている。RS junctionは左→右に、止む無くS-TOPを形成するのであればできるだけ最小限に(ループを形成せずにhooking the holdで越える)、下行結腸で必ず直線化を確認、スコープは出来るだけまっすぐに(腸内も体外も)、などである。当院ではtotal colonoscopyが出来ても、上記のチェックポイントが守れないtraineeは精密診断、内視鏡治療へは進ませない方針としている。以上を含め、当院での大腸内視鏡指導法について動画を交えて供覧する。

3)大腸内視鏡習得法~軸保持短縮法による挿入法

   森川吉英(大船中央病院)

 大腸内視鏡により癌・前癌病変を発見し治療することで,大腸癌の罹患率・死亡率を下げることができる.まずはその前提として挿入をできなければならないが,ただ単に深部挿入できれば良い訳ではない.たとえ深部挿入できても,ループを描いたままでスコープが直線化されていなければ,その後の観察・治療は制限されたものになる.過度に疼痛を与え披検者のバイタルサインに異常をきたした場合も,同様である.

 「軸保持短縮法」は大腸の軸(腸管軸)と内視鏡の軸(スコープ軸)を一致させるようにしながらヒダを1枚1枚おりたたんで腸管を短縮させる挿入法であり,理想的な挿入法である.修練中は,スコープから右手に伝わるフリー感・抵抗感に神経を研ぎ澄まし,繊細な感覚を養うよう目指す.また,右手と左手の協調(アングルとトルクの協調)操作により、スコープを自在に操れるよう努力を重ねる.一朝一夕には行かず,ある程度の期間と忍耐力が必要である.

 「軸保持短縮法」の習得は,自在なスコープコントロールの習得につながり,挿入のみならず病変の拾上げ・診断・治療の上達にとっても有益であり,是非マスターしたい.

 今回は軸保持短縮法を中心に大腸内視鏡習得法ついてのポイントを述べさせて頂く.今会のテーマ「消化器がん検診に若い力を!」の文字通り,若い先生方のお役に少しでも立てればと考えている.

4)大腸内視鏡挿入・観察法

   池松弘朗(国立がん研究センター東病院)

​ 全大腸内視鏡検査を施行するには、挿入法・観察法のマスターは不可欠である。また全大腸内視鏡検診の導入のためには、多くの人に受け入れられ、また見逃しの少ない質の高い検査が望まれる。当院での挿入は、痛みの少ない軸保持短縮法で行っており、また次のルーメンを認識しやすくし、観察でも有用である先端フードを全例使用し挿入している。観察は、見逃しを減らすため画像強調観察(image-enhanced endoscopy: IEE)を使用し、約10分かけて抜去している。近年、襞裏等の盲点の見逃しを減らすため、新しい内視鏡が多く開発され、その有用性が報告されている。また、IEE観察においても明るい観察が可能になり、平坦・陥凹型病変の発見の向上が期待されている。当日はそれらによる観察法の報告をレビューするとともに、当院における挿入・観察法に関して動画を交えて供覧する。

5)大腸内視鏡診断と治療

   堀田欣一(静岡県立がんセンター内視鏡科)

 大腸の腫瘍性病変を指摘できた際にはその病変の質的診断、量的診断を行い、適切な治療方針を決定することが重要となる。近年、NBI、BLI等の画像強調診断の開発が進み、使用可能な診断技術の選択肢は増えたが、適切な技術を適切な場面で効率良く用いることが求められるようになった。また、大腸内視鏡専門医にとっては当然の技術であっても、一般の内視鏡医にとっての普及が十分でない診断技術もあり、診断技術の普及、均てん化も重要な課題と考えられる。

 内視鏡治療においては10 mm未満の小型病変については近年、cold forceps polypectomy, cold snare polypectomyの手技が導入され、微小ポリープの取り扱いや外来ポリペクトミーの普及などの話題とも関連し、注目を集めている。一方、10 mm以上の病変においてもEMRの手技の改良やESDとの適応の棲み分けなどが話題となる。当日は現状の課題を取り上げて話題提供する予定である。

6)大腸がん検診における内視鏡検査の役割と将来展望

   関口正宇(国立がん研究センター中央病院)

​ 大腸がん死亡の抑制に向けて、日本の大腸がん検診をより改善していくためには、大腸内視鏡検査をこれまで以上に有効活用することが重要と考えられます。現行の対策型大腸がん検診では、大腸内視鏡検査は便潜血検査陽性患者に対する精検においてのみ施行されますが、検診受診率や精検受診率が低い現状では、大腸内視鏡が国全体で十分に有効活用できているとは言い難い状況にあります。そのような中、大腸内視鏡検査を最初から行う、いわゆる「内視鏡検診」をより積極的に取り入れるべきという意見も聞かれます。しかし、「内視鏡検診」の導入のためには、大腸内視鏡の有効性・安全性についてより質の高いエビデンスが必要であるとともに、医療経済学的評価や内視鏡検査のキャパシティといった観点からの議論も必須と言えます。さらに、大腸内視鏡の質の評価、担保といった点も今以上によく考える必要があります。また、検診受診者に対して一様に同一の検査を行うのではなく、受診者の大腸がんリスクの評価・層別化を行った上で、リスクの高い人には最初から全大腸内視鏡検査を勧め、その他の人には便潜血検査を勧めるといった、リスク層別化に基づく検診方法も考えられます。当日は、上記のような点を含めまして、大腸がん検診における内視鏡検査の役割と将来展望について発表をさせていただきます。今後の大腸がん検診の発展に向けて有益なディスカッションを会場の先生方と行えますと幸いです。

発表時間は12分で質疑応答はありません
最後にフロアからの質問も受ける形式の総合討論を行います

​時間厳守でお願いします 

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