《パネルディスカッションⅢ》
超音波スクリーニング法2017
これでよいのか超音波スクリーニング
-記録断面と走査法を見直す- その2
司会 : 若杉 聡(千葉西総合病院消化器内科)
司会 : 岩田好隆(東京女子医科大学東医療センター検査科)
腹部超音波検診判定マニュアルに掲載されている16断面は、大動脈の撮像断面の追加を含め見直しの時期に来ており、2016年の本学会関東甲信越地方会で見直しの討論を行った。
その結果、1)撮像枚数を増やすと検査時間が長くなる、2)その上で、撮像枚数を増やすのか、減らすのか、変えないのか、が大きな問題となった。検診の現場は時間との闘いであり、効率的な検査を行うためには安易に撮像枚数を増やすべきではない。一方で、受診者の健康状態を適正に判定し、検査結果や経時変化を正確に説明するためには正常部分も含めた撮像断面の提示が必要である。
今回も多数の施設から撮像方法、撮像枚数、撮像時間に関する報告をしていただき、現行の撮像断面をどのように変えていくべきか再検討したい。
1)記録断面を増加させることによる影響について
丸山 勝¹⁾,中林智保子¹⁾,三枝義信¹⁾,小田福美¹⁾, 山下雅水¹⁾,
内山真由美¹⁾,長坂智恵¹⁾,田島春奈¹⁾,吉實純子¹⁾,古畑総一郎²⁾
1)東京逓信病院臨床検査科 2)同人間ドックセンター
【はじめに】当院人間ドックの腹部超音波検査は、超音波検査法フォーラムが推奨している基本走査法に即して施行している。一方で検査時の記録断面は、肝腎コントラスト、胆嚢の長短軸像の3断面のみであった。腹部超音波検診判定マニュアルでは16断面以上が推奨されており、危機管理の立場からも記録断面の増加が必要との意見もある。そこで、超音波検査法フォーラムが基本走査法で提唱している基本断面38のうち、肝・胆・膵・腎・脾の5臓器で体位変換による重複がなく、走査中に描出している22断面を選び、記録断面を増加させた前後での記録時間を検討した。
【対象・方法】検査者は、消化器領域の超音波検士を取得している技師11名とした。当院人間ドック受診者に対して施行した検査、従来方式の記録断面が3断面の検査92例、新方式の記録断面が22断面の検査102例について検討した。有意差検定は、Mann-Whitney検定(p<0.05)を用いた。カ゚【結果】従来方式の方が、中央値:76秒の差を以って有意(p:0.002)に検査時間が短かった。また、1つ以上の有所見群について同じ検討を行うと、従来方式の方が、中央値:86秒の差を以って有意(p<0.001)に検査時間が短かった。
【まとめ】十分に練習したとは言い難い中での検討だったので、慣れてくると時間短縮は可能と思われるが、時間短縮のために想定される対応で懸念される事項を上げると、①休憩を取らずの検査を続ける②体位変換を省略することによる、検査精度の低下と身体負担の増加③検査フローの中で観察領域を指定しているが、指定されたフロー以外で十分にその領域が観察できたと検査者が判断して走査を省略する。また記録断面を増やした効果として、①自分の検査を客観視できる②撮像のスキルアップになる③検査フロー通りに検査を行った証明になる、が挙げられる。
2)腹部超音波検査 撮像枚数における検査時間の検討
伊藤正範¹⁾⁴⁾,天野あけみ¹⁾,稲垣倫子¹⁾,牛久美智恵¹⁾,
杉本由貴¹⁾,土屋理恵¹⁾,田端智加子¹⁾,寺内彩¹⁾,平﨑梨紗¹⁾,
増村令奈¹⁾,鏑木淳一²⁾,若杉聡³⁾⁴⁾
1)日本健康管理協会 新宿健診プラザ 健診部施設健診課
2)日本健康管理協会 新宿健診プラザ 医務部
3)木下会千葉西総合病院 消化器内科
4)超音波検査法フォーラム
【目的】腹部超音波検査における記録断面数の違いよって、検査時間にどのくらいの影響を及ぼすかを知ることを目的とした。
【方法】新宿健診プラザ指定の10断面(以下10断面検査)と、「腹部超音波検診判定マニュアル」推奨の16断面(以下16断面検査)とで検査を行い、それぞれ検査時間を計測した。検査開始は腹部にプローブを当てた時とし、検査終了はスキャニングを完全に終えた瞬間とした。所見撮影にかかる時間を考慮し、スキャニングをすべて一度終えてから所見を拾うという作業を行った。走査法は一般社団法人超音波検査法フォーラム推奨の「基本走査法」を採用した。使用した機器は東芝Aplio300、Xario200、Xario SSA-660A、日立製作所Aviusの計4機種である。
【対象】2017年6月12日から23日までに当会人間ドック、生活習慣病予防健診を受診した男性369名、女性171名の計540名。検者は全員臨床検査技師で、腹部超音波検査経験5年以上が5名、2~5年が3名の計8名、その内3名が超音波検査士を取得している。1年未満の技師は技量が検査時間に与える影響が大きくなることを考慮し、今回の検討からは外した。
【結果】各断面数における平均検査時間は10断面検査で5分39秒、16断面検査で6分01秒であり、t検定にて16断面検査の方が有意に検査時間は長いという結果だった。平均検査時間の差は22秒であり、写真1枚の撮影について3.7秒かかる計算となった。
【結語】
腹部超音波検査で、1枚の記録断面撮るには3.7秒かかり、増やした枚数分の時間が検査時間として伸びることがわかった。記録断面数を適切に設定するにあたり、考慮すべき結果と考える。
3)腹部超音波スクリーニング25枚撮影法導入前と1年後の比較
松本直樹,小川眞広,熊川まり子,渡邊幸信,三浦隆生,中河原浩史,
森山光彦(日本大学医学部消化器肝臓内科)
【目的】腹部超音波検診判定マニュアル(以下判定マニュアル)には撮影法は16枚以上と記載され、具体例が提示されている。当教室では以前より25枚撮影法を推奨しており、判定マニュアルの16枚をほぼ含み、更に腹部大動脈縦走査、膵頭部横走査、膵体部横走査拡大像、心窩部縦走査下大静脈断面、肝外側区横走査、肝S8横隔膜下肋弓下走査などが加わっており、肝、膵をより重視している。当院では1年前に検査技師のスクリーニング法に変更したので、その変化を報告する。
【方法】対象は、検査者は技師4名(超音波検査士3名)で、被験者は導入前3ヶ月間と導入1年後の3ヶ月間の、腹部超音波スクリーニングを行った糖尿病192例。検討項目は、1.検査時間、2.撮影枚数、3.異常所見。また、今回の導入にあたり、超音波指導医は介入を行わなかった。
【成績】1. 平均検査時間は6.0±4.5分→9.0±4.9分で有意に増加した(P<0.001)。2. 撮影枚数も19.0±5.0枚→28.0±5.9枚と増加した(P<0.001)。撮影時間と枚数は有意に相関していた(r=0.599、P<0.001)。3. 所見数は2.0±1.4→2.0±1.2個と変化は無かった(P=0.362)。カテゴリー2以上の有所見率は87.9%→92.4%(P=0.339)と上昇した。カテゴリー3以上の有所見率は16.2%→19.4%(P=0.577)で変化は無かった。その内訳は導入前が肝腫瘍2、肝硬変1、慢性肝障害1、慢性膵炎1、膵管拡張1、膵嚢胞1、水腎症1、腹腔内リンパ節腫脹1、副腎腫瘍1、胸水2、腹水1で、導入後には慢性肝障害2、肝硬変2、肝腫瘍1、肝内胆管拡張1、胆泥5、胆嚢壁肥厚3、胆嚢腫大1、膵管拡張2、膵嚢胞1、脾腫瘍1、副腎腫瘍2(重複含む)。
【結論】腹部スクリーニング撮影法をルーティン化することで検査時間、枚数は増加したが、有所見率が上昇して見逃しが減少したことが示唆された。
4)効率の良い腹部超音波検査走査法(第二報)
山﨑史恵¹⁾,中村稔¹⁾,山本幸枝¹⁾,木村敦子¹⁾,髙橋直樹²⁾
1)相和会横浜総合健診センター 医療技術部臨床検査科
2)相和会横浜総合健診センター 診療部
【はじめに】当施設は年間17,000名の人間ドックを含む19,000名の腹部超音波検査を9名の検査技師が施行している。受診者1名にかけられる時間は10分程度(走査時間は7~8分)と制限があるため、効率良く検査できるように2016年に当施設の腹部超音波検査走査法の見直しを行った。走査手順を統一し記録断面を22枚に定めることで、検査時間のバラツキや読影のしにくさの改善を試みた。また当施設の課題である膵尾部の描出率の低さを改善するために、右側臥位での観察を加えることになった。導入前後の変化を報告する。
【対象と方法】走査法改訂前の2015年10月~2016年3月、改訂後の2016年10月~2017年3月の腹部超音波検査受診者のうち、異常所見を認めなかった1650名と1729名を対象とし、検査時間の変化と膵臓描出部位の変化を調査した。
【結果】平均検査時間(受診者1人にかける時間)は改訂前7分、改訂後8分と有意に増加した。膵尾部描出率は改訂前25%、改訂後30%と有意に増加した。
【考察】走査法改訂前の記録断面は平均24枚、改訂後は22枚に統一した。改訂前に22枚より少なく記録していた者は著明に検査時間の延長を認め、多く記録していた者も右側臥位の観察を加えたことにより検査時間の増加がみられたと考えられる。また、右側臥位により膵尾部の描出率も著明に増加した。改訂の利点は以前より膵臓の観察部位が増えたこと、欠点は検査時間の延長により受診者の待ち時間が増えたことといえる。現在の走査手順を用いて検査時間の短縮を図るには、記録断面数を減らすことが最善と考える。
【結語】信頼性のある腹部超音波検査を効率良く実施するために、走査手順・記録断面数を統一した結果、膵尾部の描出率は向上するものの検査時間の延長をきたすことが判明した。検査時間の延長は受診者からのクレームの対象になるばかりでなく、健診全体の流れに影響を与えてしまうため改善が必要となった。そこで、体位変換も含めた走査手順は変えず、全ての技師が同一手順で走査することを徹底し記録断面数を減らすことにより時間の短縮を図ることにした。記録断面、枚数については検査技師、読影医、結果説明を行う面接医等で適正断面・枚数を決定していきたいと考える。
超音波検査は限られた時間内で見落としなく行うことが望まれる。時間と精度に挟まれる施設は多数あると感じているが、腹部超音波検診判定マニュアルに沿った基準を各施設で定め、効率の良い検査となることを望む。
5)スクリーニング超音波検査の検査時間と撮像枚数についての検討
若杉 聡(千葉西総合病院消化器内科)
【はじめに】腹部超音波検診判定マニュアルには、推奨する基本断面像を16断面で示している。この基本断面を見直すにあたり、いままで演者が行ってきたスクリーニング検査の撮像断面数と検査時間を検討した。
【対象と方法】対象は2017年5月25日から2017年7月25日の期間で演者が行った腹部超音波検査50例(精密検査を含む)である。これらのカテゴリー分類、撮像断面数と検査時間を対比した。精密検査を行う場合も、最初にスクリーニングを行ってから、精密検査を行い、全体の検査時間とスクリーニングにかけた時間を分けて検討した。
【結果】検査を行った50例で、カテゴリー1が2例、カテゴリー2が18例、カテゴリー3が6例、カテゴリー4が11例、カテゴリー5が12例、カテゴリー4’が1例だった。スクリーニング検査に費やした時間は平均20分で、撮像断面数は平均64枚であった。精密検査の時間も加えた全体の検査時間は平均38分で、撮像断面数は125枚であった。カテゴリーごとのスクリーニング検査時間はカテゴリー1で平均15分、カテゴリー2で17分、カテゴリー3で19分、カテゴリー4で25分、カテゴリー4’で15分であった。
【考察】スクリーニング検査にかかった時間は平均20分で、腹部超音波検診判定マニュアルで推奨している10分以内ではなかった。その原因として、今回対象とした症例は精密検査目的に行った症例が主体であったためと思われる。カテゴリーの内訳で、明らかにカテゴリー4、5が多く、カテゴリーが高くなるほど、平均検査時間が長い傾向にあった。一方、スクリーニング検査、全体の検査において、撮像断面数は、1分あたり3-4枚であった。1分あたりの撮像断面数をこの枚数にしても、検査時間7分で21枚、10分で30枚の撮像が可能であると思われた。
【結語】現在の16断面に撮像断面を加える場合、1分3枚を基準にして考えると、7分で21枚まで撮像可能と思われ、今後の基礎データとしていただければ幸いである。
発表時間は8分で,質疑応答時間は2分です
発表終了後に総合討論を行います
時間厳守でお願いします