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《教育講演 Ⅱ》

大腸がん検診入門

講師 : 斎藤 博
(国立がん研究センター 社会と健康研究センター)

(第1会場 14:40~15:45)

 

 大腸がん検診の経緯、エビデンスを整理し、海外での取り組みと我が国の現状から今後大腸がん死亡率減少実現に向けて展望する。

1.日本における大腸がんの罹患率、死亡率の推移

 年齢調整死亡率が1990年代後半から2000年にかけての増加からその後減少傾向に転じている。罹患率は連続的に増加を続けていたのがその傾向はほぼ平定化しているが減少傾向はまだ見えない。海外先進国と比べ、いずれも同等あるいはそれ以上の水準に達している。

2.大腸がん検診の経緯とエビデンス

 大腸がんは海外先進国では日本より早い時期から死亡率が高く、その対策が課題であった。1960年代後半に便潜血検査で無症状なDukes Aステージの大腸がんが見つけられるという報告を契機として1970年-1980年代に多くの検討がなされた。まず1970-80年代に開始された化学法便潜血検査について4件のランダム化比較試験(RCT)で死亡率減少効果が一致して示され、最初に行われた米国のミネソタ研究では罹患率減少効果も示された。同研究の長期追跡結果により、効果は検診開始30年後、あるいは中止後の約15年にもわたって継続することが認められた。   

 現在の免疫法便潜血検査は日本で開発され、その有効性が明らかにされた。免疫法ががん、advanced adenomaに対する感度が高いことが示されている。さらには内視鏡についても最近、sigmoidoscopy に関する複数のRCTにより、死亡率減少と罹患率の減少効果が実証され、罹患率減少はスクリーニング後、10年以上にわたって認められている。

3. 海外での取り組み

 海外では多くの先進国で化学法便潜血検査による検診が開始され、最近では免疫法に切り替えられつつある。このうち英国では2006年から国のプログラムとして開始され、2012年の中間報告によれば、近いうちに全体で16%の大腸がん死亡率減少が実現すると分析されている。一方、米国では、科学的根拠のある複数の検診法(便潜血検査、内視鏡など)が推奨されている。すでに大腸がん死亡率の顕著な低下がみられており、その60%近くが検診による効果と分析されている。

4. 日本における死亡率・罹患率の推移と大腸がん検診の現状

 日本では大腸がん死亡率減少への検診の貢献は明らかではない。最大の要因は死亡率減少効果に結び付く検診が対象者のごく一部にしか提供できていない現状にある。対象者の半分を占める職域の検診には精度管理の枠組みはなく、例えば精検受診率は30%にも満たないと推定される。また、対象者の残り半分を占める地域の健康増進事業による検診(集団検診と個別検診)は精度管理体制が整備されつつあるが、その過半数を占める個別検診では未整備であり、精度管理水準が低い。つまり効果が期待できる十分な検診は全象者の20%程度にしか提供されていないと推定される。

5.今後の日本における展望

 地域住民に対する健康増進事業による検診では精度管理の仕組みが整備され、従来の集団検診では精検受診率が70%台まで改善しているが、同じ健康増進事業の中でもその半数を超える個別検診では約20%も低い。さらに対象者の半数にあたる職域の検診や人間ドックの検診の精度管理水準はさらに低く、死亡率減少に結び付く成果は期待できる状況にはない。今後、全対象者に対して検診がきちんとした精度管理のもとに提供される必要がある。

大腸がん検診の方法はsigmoidoscopyについても科学的根拠が確立した現在、内視鏡も選択肢として大腸がん検診を行うことを検討すべきである。便潜血検査と内視鏡のいずれかを選択できるようになれば受診率向上にも寄与すると考えられる。

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